作品を支える素材がこのように優れていることがグランプリを得た大きな要因だが、この作者はラフなように見えて、じつはかなり巧妙に素材を料理している。例えば最初はいかにもホーム・ムービーらしく作者自身が画面に出てきたりしている(墓参りのところ)。ところが満州ではたった一カット、それも赤い手袋がちらと見えて作者を暗示するだけ、それ以降は作者はじょじょに影を見せなくなる。このことがちょうど私的なものから日本の歴史へとフィルムがひろがるのとうまくクロスしている。私的なものは公的なものへとその座をゆずるのだ。
(イメージフォーラムフェスティバル1992カタログ審査員講評より抜粋) |