私が、日本から遠く離れたタイの最北端、メーサイにある この施設の人々に出会ったのは8年前の事でした。 その頃、私は会社員として、あくせくした日々を送っていました。 たまたま、この施設を訪れ、ここで暮らす子供達を見ていて 「私達はただ生きているだけでいい。 自分は人よりこんなにできるとか、一番になろうとしなくても ただ生きている事が、かけがえのない事なのだ」 という実感がふっとわいてきたのでした。
 
子供達の故郷の村には学校がないので、学校に通うため とても小さな子供達が、親元から離れて共同生活をしているのですが 自分にできる事を探して働き、隣にいる友達のことも思いやっている。 それは、物質的な豊かさばかりを求め 自分のことだけで精一杯になっている先進国に暮らす私達が 置き忘れてきたもののように思えました。 そして、子供達の笑顔、子供達の毎日に接して 「隣人と共に生きる」 という心が、ひしひしと伝わってきました。
   
「私達はあなた達から学ぶことができるけれど、あなた達も私達から学ぶことができる。」 と、ここの施設のお母さん、ノイさんは語りました。 経済的に豊かになったけれども、一方で、大人が子供の命を奪ったり 生きている事に疲れて自らの命を絶ってしまう人がいる、今の日本で 幸せに生きるという事を、彼らから学ぶことができるのではないか。 子供達のきらきらと輝く笑顔、優しさを 手のひらでそっとすくいあげるように映像にして、他の人々にも、手渡したい。 私は、カメラを携え、ひとりでこの施設に通ううちに、7年間がたっていました。
 
麻薬や人身売買、エイズの危険にさらされた人々の悲惨な現実をあらわにするのではなく、 そこから脱して、幸せに生きようとする子供達と、それを支えるイタリア人神父さんの たゆまざる努力を彼らの日常に寄り添って撮影したい。
 
毎年、タイから帰るたびに、その映像を編集していたのですが 多くの方に映画として観てもらいたいという願いから 伊勢真一監督始め、多くの方々のご協力で この映画を完成することができました。

 

 
 
   
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