タイの最北端の街メーサイ。麻薬や、人身売買の危険にさらされた山岳民族アカ族の子供と女性達約150人が、家族のように暮らしている。タイ語や算数、アカ族の伝統的な刺繍を学び、自立した生活ができるように、約30年前からイタリア人のペンサ神父、タイ人女性ノイさんが彼らを見守ってきた。どんな小さな子もただそこに生きているだけでいいという空気の中で 互いに助け合う子供達の姿を見て、都会の生活でこわばった「私」の心が、なごんでゆく。  
     
ノイさんは、この施設の子供や女性達ばかりでなく、近くに住むアカ族の女性達にも仕事を提供している。売春や麻薬密売に従事しないように。「私はみんなに自尊心を持ってもらいたいの。それは、一番大切なことだわ。働くことによって尊厳が生まれるのよ。」おばあさん達も小さな畑で野菜を作っている。タイ語がわからない「私」も、耳の不自由なおばあさんや子供達に話しかけられ、次第に心が開かれていく。  
     
子供達の故郷、山奥のアカ族の村をペンサさんが訪れると、たくさんの村人が集まってきて、握手で歓迎する。その村のひとつ、アボド村で大火事が起こり、19軒もの家が丸焼けになってしまった。施設で働いている、アパという女の子のおじいちゃんも燃えている家に何かを取りに戻り、帰らぬ人となってしまった。わらぶき屋根の家は焼け焦げた柱を残すばかりで、せっかく収穫した大切な米も黒焦げになっていた。  
     
この施設を卒業したユイは、新しい家庭を作りかけた矢先、エイズに感染していることがわかった。自分にもしものことがあっても娘のファがちゃんと育つように、ユイはこの寮に帰って、みんなと暮らし始めた。しかし、翌年、ユイは32歳で2歳のファを遺して亡くなる。ペンサさんは、ユイがファに会いたがったのに、ファを連れて行けず、かわいそうな事をしたと話していた。ユイの痛ましい姿ではなく、美しい笑顔をファに覚えていてほしかったからだった。ファは、ペンサさんに聞いた。「おじいちゃん、お母さんはどこ?」「土の中にいるよ」 「ちょっと開けて見せて?」  
     
ファは、ノイさんやたくさんの仲間にかわいがられて、年々成長していく。カメラの前で、猫を踊らせてみせたり、友達とけんかをしたり・・・ユイのように、夫からエイズに感染してしまった女性が小さな赤ちゃんを連れて相談にやって来た。ファは嬉しそうに赤ちゃんの世話を焼いている。「私」は、ファの成長を見届ける事ができなくなったユイの気持ちを思い、ファの命をみつめていたいと、コンティップ村での撮影を続けた。  
     
ファは9歳に成長し、再婚してしまったお父さんが会いに来るのを待ちながら、街の小学校で寮生活をしている。ファだけがお母さんのようなノイさんに甘えていては、他の子供がかわいそうだからとノイさんは語った。卒業生の中には、村で子供達を教えたいという希望を持って大学に進学する子もいる。子供達は、いつか自立して、ここを飛び立つ日まで、隣人と共に生きる心を育みながら、かけがえのない日々を生きている。  
     
コムローイとは?    
コムローイとは… 白い紙でできた熱気球 タイでは、ろうそくの炎で中の空気を暖めて、空に飛ばし 不幸や悪魔が一緒に飛んでいくように祈ります。

21世紀を迎える、大晦日の晩、大きな夜空に たったひとつ、ぽっかり浮かんだコムローイは 人間の命のように、はかなげに漂っていました。
 
アカ族とは?    
タイの山岳民族アカ族
中国の遊牧民族が約百年程前から移住、現在、チェンマイからメーサイ近くのタイ北部の山岳地帯には、約5万人のアカ族が暮らしています。森の精霊を信仰し、歌や踊りを愛し、黒い木綿の衣服には美しい刺繍やビーズがちりばめられています。

刺繍のデザインには、蝶の触角、花びら、ねずみの目など、自然の中から取り入れられた名前がついています。女性は、悪霊にとり憑かれないために、美しい銀色の帽子をいつもかぶっています。 かつては、焼畑農業をし、米や野菜を栽培し、鳥や豚を飼って、高床式の住居で自給自足の生活をしていましたが、焼畑が禁止された現在、やせた土地での定住生活は厳しく、伝統的な生活ができなくなってしまいました。

また、道路ができ、電気が通じ、テレビやラジオを持つようになり、都会から少女や大麻を買いに来る人が現われました。貧困のために、少女が人身売買され、エイズに感染したり、大麻の栽培に手を出し、アヘン中毒になる人もでてきました。 
民族のアイデンティティーを守りつつ、経済的に自立するための方法が模索されています。
 
     
     
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